子どもに寄り添うこと

             一枚の絵
 携帯の画像ファイルを整理していた時、一枚の絵が出てきました。妻が担任した女子生徒(Aさん)が、進学した先の高校で卒業制作として描いた絵でした。
 数年前、Aさんから卒業制作展示会の案内が妻に届き、私は運転手として同行しました。Aさんは小・中学校9年間、学校でほとんど声を発したことがない生徒でした。
 会場に着き、Aさんの絵の前に立ちました。それからしばらく声が出ませんでした。そして、涙が溢れて止まりませんでした。妻も肩を震わせ大粒の涙を流していました。
 海の底の貝殻の中にいる一人の少女が、海面から降り注ぐ光を仰ぎ見ている絵でした。貝殻から少し体を出して光を見上げている少女の顔は、にっこりとほほ笑んでいるように見えました。
 Aさんは、暗い海の底で何年も殻に閉じこもっていたのです。話すことができないことをずっと苦しんできたに違いありません。いつかこの状態から抜け出したい、そう願っていたはずです。それが今、高校を卒業するにあたって、やっと光が差し込んできたのです。
 いつか誰かが自分に手を差し伸べてくれる、誰かが自分を引き上げてくれる、その誰かとは、実は自分だったのです。そのことに気づき、自分の成長の証として描いたのが、この絵だったのだと思います。
 時間帯が合わず、その日会うことができなかったAさんから、後日葉書が届きました。自分の感情を言葉にすることは勿論、文章にすることも苦手なAさんが、精一杯自分の心を表現した言葉がそこに書いてありました。「ありがとうございました」
 不登校の子も問題行動を繰り返す子も、きっと光を待っています。今の状態から抜け出そうともがいています。どの子も今のままでいいとは思っていないのです。
 私たちはスーパーマンではないし、救世主でもありません。私たちにできることは、「この子は必ず乗り越える」「この子には力がある」と信じ続けることです。そして、そっと寄り添うことです。
 その子が殻から外を覗いた時、「待ってたよ」と声をかける、そんな先生でありたいと思います。

 

 この文章は、以前に米沢市立第三中学校にお勤めされていた大河原真樹前校長先生(現置賜教育事務所所長)が書かれたものです。私たち教員は、何百人、何千人の子どもたちとの出会いがあります。その子どもたち一人ひとりと、どうかかわってきたのか。いつも一生懸命にその子のために、かかわろうとしてきました。しかし、卒業近くになると、反省ばかりが頭に浮ぶ。でも、その子どもたちも、新しい出会いがあり、日々成長しつづけていきます。しばらくぶりで、その子どもたちの精一杯生きている姿に出会うと、安堵とともに自然に頭が下がる。教師の一人として、責任の重さにあらためて身の引き締まる思いで、読ませていただきました。

  

※置賜教育事務所だより「情報おきたま」72号より転載

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